宮城県でのさつまいも栽培事例
情報はインターネットが発達してもなかなか知りえないもので、宮城県内で5年前からさつまいも栽培をしていた方達がいたようです。2016年1月6日付の河北新報に以下の記事が掲載されていました。
記事の概要
以下に、掲載されていた記事を引用したいと思います。まず、概要は以下の通りです。
徳島県のサツマイモの高級ブランド「鳴門金時」の苗を宮城県内で植えて「仙台金時」として育てようと、東日本大震災で被災した県内農家らが栽培を始めて5年。収穫が軌道に乗り、栽培の呼び掛け人らが今月の毎週土曜日、仙台市中心部で仙台金時の焼き芋を期間限定販売する。まろやかな甘みとしっとりした食感を広くアピールし、販路拡大を目指す。
さつまいもの栽培については、東日本大震災が1つの契機で、塩害に強く簡単に育てられるという理由もあったようです。恐らく津波の浸水した沿岸部での栽培だったとは思うのですが、この記事からそこまでは分かりません。
地図で調べた限りでは、以下の記事に記載がある大崎は内陸の自治体のようです。もしかすると、沿岸部での栽培を見て興味を抱いた農家さんが居たのかもしれません。
収穫量
仙台金時の栽培を呼び掛けたのは徳島県小松島市出身で、青葉区の飲食店で料理人として働く浜松彰宏さん(53)=仙台市太白区=。農業を営む常連客に「小型の耕運機1台で育てられる。塩害にも強い」と提案したのがきっかけだ。2012年5月、浜松さんが徳島県鳴門市の農家から取り寄せた鳴門金時の苗計約600株を、宮城県内の農家6人がそれぞれの畑で試験的に栽培。同年秋に計500キロほどだった収量は年々増え、昨秋は仙台、石巻、大崎の3市の計9人が植えた計4000株から計約2トンを収穫できた。
さつまいもの収穫量は品種や栽培の条件によってさまざまなので一律には言えないのですが、少なくとも1株で800グラム程度は収穫できると思います。2012年が600株で500キロなので、1株だと約830グラム、2016年は4000株で2トン(2000キロ)なので1株だと約500グラムとなります。
実際の収量を正確に把握するということは難しいのですが、もう少し収穫出来てもいいような印象を受けました。とは言え、実際に栽培をしなければ分からないことなので貴重なデータだと思います。
ちなみに、生いも1キロを500円で販売するとすれば、2000キロ×500円で100万円の売り上げとなります。そこから生産原価(苗代、マルチ代、肥料代、人件費など)を差し引いても50万円前後は残るかと思います。さつまいもはどうしても保存場所が必要なので、保存方法の問題が解消されればだいぶ栽培しやすくなると思います。
販路
あとの問題は販路なのですが、記事によれば仙台駅前の商業ビルで販売を行うようです。
これまで産直イベントで販売してきたが、販路拡大が悩みだった。知人の青葉区の広告代理店社長大山裕司さん(45)らが焼き芋にしてJR仙台駅周辺で売ることを発案。駅西口の商業ビル「イービーンズ」を運営するエンドーチェーン(青葉区)が、売り場スペースの提供と芋焼き器の貸し出しを快諾した。
焼き芋は仙台駅ペデストリアンデッキに直結するイービーンズ2階出入り口で7、14、21、28の各日正午から午後7時まで販売する。1個300円。1日当たりの売り上げ目標は100個で、2月以降は在庫状況をみて検討する。 浜松さんは「素材の良さを伝えるには焼き芋が一番。口コミで評判が広まってほしい」と願う。連絡先は大山さん090(4552)4871。
なると金時について
参考までに色々と調べてみたら、なると金時という表記は品種ではなくて商標のようです。品種は高系14号というそうです(全農徳島県本部のHPには高系14号を系統選抜したと書いてありました)。ほとんどの消費者の方は興味が無い話かもしれませんが、『商標』と『品種』は全く別物です。
ちなみに、2014年から山元町で栽培しているさつまいもの品種は『べにはるか』といいます。べにはるかも、『紅天使』や『甘太くん』という商標を取得している団体があります。販売するための手法は色々とあってもよいと思うのですが、品種と商標を混同して販売している事例もあり、ちゃんとした表記は大切だと思います。
べにはるかについて
ついでに、べにはるかについて書くと、近年の育種の中でも大当たりの品種だと思います。数年前、初めて食べた時はとろけるような触感と強烈な甘さに驚きました。じっくりと加熱して、1日から2日寝かすと更に甘みが増します。皮から独特の香ばしい甘い蜜がしみ出してきます。
べにはるか
安納いもが蜜いもと呼ばれて大人気になったことがありましたが、安納いもよりもべにはるかの方がクセが無いという方もいます。安納いもは、若干ニンジンのような風味があります。この辺は好みかもしれません。
さつまいもの好みというと、『ほくほく派』と『しっとり派』に分かれるようです。関東の代表的な品種のべにあずまは前者のほくほく派です。一方で、べにはるかは後者のしっとり派です。これも、完全に好みの世界なので何とも言えませんがべにはるかはこれまでのさつまいものイメージを大きく覆した品種とは言えそうです。さつまいもそのものがお菓子のような存在になっています。
さいごに
話がだいぶ長くなりましたが、農作物の良いところは食べれば分かるということだと思います。どんなに宣伝してイメージをよくしても、味だけはごまかせません。仮に食味が90点と93点であれば、個人の好みの差程度かもしれませんが、90点と50点では隠しようの無い差となります。
宮城県山元町で育てたべにはるか(2016年)
それだけに、毎年が試行錯誤の連続で、そこが農業の面白いところだと思います。昨年、出身地・宮城県山元町で育ったさつまいもも貯蔵庫で美味しく熟成しています。