雑草の話4(雑草にカドミウムを吸わせる)
雑草の話3の続きです。雑草はカドミウムをどのくらい吸収するか(カドミウム吸収量の調査)という話になります。
この実験では、約100種類の雑草を栽培してカドミウム吸収量を調査しました。ちなみに実験というのは再現性が必要になります。このため、最低でも同じ条件のものを3つ用意する必要があります。例えば、2つだと0と100という値が出た時にどちらのデータが正しいのか分かりません。
3つ以上の同一の試験を繰り返すことによって、データの信頼度を高めます。
もちろん、100とか1000回試験した方がより確実なデータが取れます。でも、一般には3反復が実験の最低条件になっています。ただ、新薬の臨床試験や世論調査などは、調査対象がある程度大きくないとデータの信頼性が担保できません。
このため、100種類の雑草を調査するためには3反復で300の植木鉢が必要になりました。その他にも、栽培に使う土の種類、カドミウムの濃度、栽培期間、分析する雑草の部位など理由をちゃんと説明できるように、ひとつひとつ設定をしました。
この条件設定が一番悩ましいところで、何を言いたくて実験をするのかということを常に考える必要があります。もちろん、想定していたものと違う答えが出ることもあり、それはそれで新たな発見につながることもあります。実験の結果、雑草のカドミウム吸収傾向が分かりました(あくまでも100種程度の中の話です)。
左・アメリカセンダングサ、右・イヌビエ
例えば、キク科のアメリカセンダングサは茎や葉にカドミウムを蓄積しやすく、イネ科のイヌビエは根にカドミウムを蓄積しやすいことが分かりました。実験に使用した雑草の科の数はまちまちだったので、一概には言えないのですが、カドミウム耐性と合わせると次のようなこと傾向が分かりました‥
・イネ科はカドミウムに耐性を示し、茎や葉のカドミウム量は少ない
・カヤツリグサ科はカドミウムに耐性を示し、茎や葉のカドミウム量は多い
・マメ科はカドミウムに弱く、茎や葉のカドミウム量は少ない
・ヒユ科はカドミウムに弱く、茎や葉のカドミウム量は多い
この4行を示すのに3年と少しかかりました。
あくまでも傾向です。後は、世界中で膨大な量が発表されている学術論文との比較でこの傾向の正しさを示すことになります。ちなみに、多くの研究事例とも合致する結果だったので、一安心でした。
人それぞれですが、研究前に論文をたくさん読むタイプと、研究の後で投稿論文を書く時に論文を探すタイプがあります。自分の場合はどちらかというと後者でした。研究前に論文をたくさん読むタイプは、
あれもこれも調べられている‥だから止めよう
という人が多い気がします。もちろん事前に調べることは凄く大切なので、研究分野に関する最低限の情報は集めておく必要があります。それから、研究の後で論文を探すタイプは、
既に同じことが調べられていた‥残念
という場面に遭遇します。でも、実験というのは条件設定で変化するものなので、論文の書き方次第ではどうにかなることがあります。人間の考えることは大体似ているので、類似の研究を気にしていたら新しい発見も出来ません。
それと、自分で実際に調べておくというのは成功、失敗に限らず非常に大切なことです。失敗や経験は後で必ず生きてきます!