願っていれば通じるというか、出会いはタイミングということで栃木県で漆掻きをされている方にお話を伺ってきました。元々、漆や陶芸などの工芸品に興味があったのですが、たまたま元研究室の学生さんが職人さんと出会って名刺をもらっていたので、それに便乗した形です。

現在の仕事に漆は直接関わる訳では無いのですが、仕事に関わることばかりやっていては視野が狭くなってしまいます。むしろ、仕事外に面白い考えがたくさんあるような気がします。

漆掻きという職業

最近、国勢調査の数値が出て日本の人口が減少したと話題になっていましたが、それでも1億2700万人くらいが日本に住んでいるそうです。その中で最も多い職業は何か‥は分かりませんが漆掻きという職業は相当少ないと思います。

漆掻きを仕事としている方(専業として)の詳しい数字は分かりませんが、多くて50人前後のようです。100人はいないようです。あまり意味の無い計算ですが、1億2700万人分の50人‥254万人に1人ということで、宝くじに当たるような確率です。

仕事の内容は、漆の木に傷を付けて漆を採取するというものです。言葉で書くとこの一言になるのですが、1本の漆の木から採取できる漆の量は少ない上にかぶれるという非常に過酷な仕事です。同時に、国産漆の最前線であり、漆に関わる人々を支えている職業でもあります。

栃木に1人

今回、お会いした方は漆掻き職人の秋田稔さんという方です。先日、NHKのプロフェッショナルで放送された最後の漆カンナの職人さんが紹介されていたのですが、秋田さんもその方道具を使用しているということでした。

秋田さん

秋田稔さん

とにかく、話が面白くて、実際に漆掻きを体験させて頂きました。本当はもっとお話を伺いたかったのですが、同級生の方と肉を食べて(29日だけに肉の日というユニークなお話でした)温泉に行くとのことで、聞き足りないままに帰ってきました。

一生のうちで日本の人口・1億2700万人の中のたった数十人の人と出会える機会は滅多に無いと思います。しかも、秋田さんの漆採取量は国産漆の10%になるそうです。1人の方が日本の漆の10%を担っているというのは何とも痛快ですが、担い手不足など現在の漆業界を反映していると言えるかもしれません。

漆に関わる道具

青森の職人さんが作った漆カンナの他にも、漆を採取する桶である漆桶(木から掻き出した漆を入れる容器)は秋田さんの自作であったり、岩手県一戸町で作られた杉桶(問屋に運ぶ漆を入れる桶)は岩手の職人さんが作っていて、1桶が1万円だったりと、本では分からない話ばかりでとても面白かったです。

漆かんな  漆桶

漆カンナと漆桶

ちなみに、漆桶は花入れとしても使われるので、骨董好きにはたまらない一品です。こちらの桶はホウノキの皮を剥いで、煮て樹皮を柔らかくしてから桶の形に整えるそうです。この桶だけでも十分な工芸品になっていました。

漆の将来

畑には漆の苗が植えてあり、7から8年程度で漆が採取できるそうです。畑の中でも合う場所と合わない場所があり、1年目は好みの養分を吸収するので育つそうですが、2年目以降は枯れる場合もあるそうです。研究の対象として考えると非常に面白い植物だと思います。

うるしの苗

畑で栽培中の漆の苗

また、「漆」を文化面だけでなく、経済とか農業などの視点を絡めていくと新たに見えることがあります。秋田さんの場合、昭和30年代が漆の最盛期で、収入も現在の大学生の初任給の3倍程度はあったそうです。その後、漆の需要低下や輸入品の増加など苦労もされたようで、漆の他にこんにゃく栽培やぜんまいを育てたりしたそうです。

木から出た漆

浸出した漆(クリーム色の液体)

結局、経済的に成り立たないとどんな産業も難しいということになると思います。この辺は、今関わっている農業と全く同じで、将来、農家はここまで減らないまでも漆の世界と似たことが起こる可能性もあります。もちろん、世界に打って出るという全く別の展開もあるかもしれませんが、まさに、今が分岐点だと思います。

秋田さんの採取した漆が、どんな所に行き、どんな所に使われているか、どのような人が関わっているかを追跡すれば日本の漆の一端が見えて来そうな気がします。そんな漆の道を辿れば、本が一冊書けそうな気がします。


人気ブログランキングへ